[優秀賞]
塩原麻尋|『されどおまえもこちらがわ』
山形県出身
トミヤマユキコゼミ
「生きるよりしんどいことはない」をテーマに31000字くらいの小説を書きました。オルガ?ヘプナロヴァというチェコスロバキア最後の女性死刑囚からインスピレーションを受けています。「可哀想な人」で終わらせない、傲慢で独りよがりな主人公です。現実でも、小説でも、苦しい思いをして生きのびた先に救いがあるとは限りません。それでも、きっと、彼女は、多少なりとも救われたのではないかと思います。
トミヤマユキコ 専任講師 評
本作は、一見どこにでもいそうな女子大生が、この世の理不尽に少しずつ心を抉られ、狂気を育んでいく様子を描いている。
たとえば、彼女の両親は姉の方をより愛しているように見えるし、姉はその不均衡の上にあぐらをかいている。そしてバイトに行けば、いけすかない正社員男性から、学費や自動車教習所の代金を親に出してもらっているという理由で「親ガチャ大勝ちじゃん」と言われてしまう。ただ生きているだけで増えていくかすり傷は、じくじくと痛み、癒えることがない。
ラスト近く、彼女はある行動を起こす。ここを読んでどう感じるかが、本作最大のポイントと言っていいだろう。「たったこれしきのことでそんな行動を!?」と思うか。「いや、たったこれしきのことでも、行動を起こすには充分だよ!」と思うのか。それは読者がこの世界をどのように眺めているかによって変わる。その意味で本作は、一種のリトマス試験紙。何色が浮き出るか、ぜひあなた自身の目で確かめていただきたい。