美術科 テキスタイルコースDepartment of Fine Arts Textile

[最優秀賞]
山浦有葵|空白の吹き出し
長野県出身
安達大悟ゼミ
可変 パネル、アクリル、丸釘、ナイロン糸、ポリエチレンクロステープ

まるで小芝居の連続である日常の中で、自分の言葉が見えなくなることがある。本心が言葉に負ける感覚に陥り、言葉を断絶し楽を求めた。しかし言葉を手放した瞬間、大きな虚無感に襲われた。自分の言葉を失ったら、自分自身すらも見えなくなってしまいそうだ。捨てた言葉を拾い集め、コミュニケーションの壁を壊そうとするとき、”空白の吹き出し”は現れる。いつかこの空白を自由に操れたなら、私は胸を張ってヒトであることを喜べるだろう。


安達大悟 専任講師 評
コミュニケーションが重要視される現代において、ものづくりの世界も例外ではなく、「師匠の背中を見て学ぶ」だけではない様相を呈しはじめている。言葉をそれほど使わなくても生きられた人々も、言葉を操ることを強いられる時代に生まれた彼女は、様々な場面で自身の言葉が見つけられず先人たち以上に敏感になった。
ただカッコイイ、ただキレイなものに憧れただけなのに。
言葉にできないから作っているのに。
行き場の無い想いを抱えながら、それでもなんとかしようと生き抜いてきた。
そんな葛藤を込めた山浦の作品は、平面作品を中心としたインスタレーションとして仕上がった。言葉にならぬ想いを洗練された形に落とし込みながら、枠に収まらない完成度の高い表現へとつながっている。そこからは彼女自身の作品に対する高い美意識を感じることもできる。むしろ、未だうまく言葉を操れないでいるからこそ、表現することだけは誰にも譲れなかった結果かもしれない。
できないことがあってもいい。
ただ、そこを見つめながら自身の価値観で今後も表現し続けてほしいと思う。