歴史遺産学科Department of Historic Heritage

石川楓|市街地における農業用水路の保存?活用事業の展開 -山形市?山形五堰を事例に-
栃木県出身
志村直愛ゼミ

 山形五堰とは、山形市内を流れる御殿堰?笹堰?八ヶ郷堰?宮町堰?双月堰の5つの農業用水路の総称である。(図1)馬見ヶ崎川から取水された水は扇状地をつたって市内を網目のように流れている。その歴史は古く、1624年に山形城主鳥居忠政が馬見ヶ崎川の流路を変更する工事を行った際、城濠と市内の水を確保するために5箇所の取水口(堰)と水路を設けたことが五堰と呼ばれる由縁とされる。堰の水はその後も農業?生活用水として利用されたが、高度経済成長期には水質汚染や洪水などの問題が起こり、石積みの水路はコンクリートの水路に改良された。また、山形五堰は2006 年に疎水百選に認定、2023 年には世界かんがい施設遺産に登録された。このように地域用水?親水空間としての機能や歴史的な価値が認められているが、行政による文化財登録などはされていない。
 先行研究では、山形五堰全体の保存?活用事業について取り上げた論文が少ない。本研究では、五堰の保存?活用事業の展開プロセスを明らかにし、現状の課題を考える。研究方法として、市が策定した計画の中から山形五堰に関する項目を抽出して整理する他、整備事業の目的や内容を調査した。
 山形五堰は1986年の最上川中流農業水利事業の完了により農業用水路としての役目を終え、その後は親水空間としての整備が行われるようになった。2000 年代になると五堰の保存?活用に関わる団体が設立され、市民主体の啓蒙活動が進んだ。そして 2010 年の「水の町屋七日町御殿堰」の完成を契機に、中心市街地を流れる御殿堰が観光資源として注目されるようになった。山形市は山形五堰を重要な歴史遺産として保存すると同時に、まちづくりや景観形成、観光資源として活用している。
 問題点としては、堰の流れを分断するような、スポット的な整備事業ばかり行われていることが挙げられる。また、都市計画で定められたエリアから外れた堰は整備が進んでいない。山形五堰の全体を把握し、一貫した整備計画を策定することが今後の課題となる。2024年に、山形五堰は建造から400年の節目を迎える。これからの持続可能な保存?活用事業のため、行政主体の事業だけでなく地域住民との協働が必要になるだろう。

1. 山形五堰流路図