[優秀賞]
小野葉月|豪雪地帯における持続可能な木造耐雪住宅の研究 -弘前市の中古住宅の活用に資する住宅改修モデルの提案-
青森県出身
山畑信博ゼミ
目 次 序章/日本の雪害に関する俯瞰的把握/弘前市の雪害状況の調査/弘前市の地域特性と中古住宅市場の調査/住宅の持続的な活用に関する考察/弘前市の改修における方策/住宅モデルの提案/終章/資料編
日本の住宅は、自然災害による一次、二次被害に対して対策をすることが必要不可欠である。中でも東北地方では、積雪被害の発生により住宅に高い安全性が求められている。
対象とする青森県弘前市(図1、2)は、全域が豪雪地帯または特別豪雪地帯であり、冬季には積雪による建物、人的被害が毎年発生している。築年数の浅い住宅や今後の新築に関しては、省エネ法の改正により性能の担保が期待できるが、中古住宅は寒冷な気候に適する性能を備えていない場合が多い。特に、築年数が古いほどその傾向にあると推測した。現存する中古住宅を焦点とし、雪害対策や住宅性能向上を目的とする改修促進は有効と考える。
一般的に改修の促進が阻まれる要因として、コスト試算の結果から、施工費用やランニングコストなどの大きな負担が第一にあると考察した。統計調査からは、弘前市における住宅需要は一定数あると伺えたが、中でも近年の中古住宅需要の増大は、いまだに続く全国的な建築資材の価格高騰によるものと推考する。
住民の安全かつ快適な暮らしを望むには、弘前市の気候やに適切な住宅とすることが重要である。除排雪作業の軽減や人的?建物被害の防止策を立てる「直接的な積雪期の対策」に併せて、快適な暮らしを担保できる断熱性能の確保といった「間接的な積雪期の対策」の双方に策を講じる必要がある。また、住宅を長期にわたり良好な状態で使用するためには、改修促進により市場に並ぶ住宅ストックの良質化を進め、更なる利活用に繋げる仕組みを整える必要がある。同地域内での持続的な住宅使用を見据え、本研究に取り組むこととした。
青森県弘前市全域の築年数20?40年前後の中古木造住宅を対象とし、豪雪地帯における住宅の持続的な使用の可能性を示すことを目的とする。築年数については、住宅耐用年数と経済的負担を考慮した上で、旧耐震基準以前の住宅は対象外とした。
また、弘前市と類似する地域の統計調査、および現地での実態調査を経て他地域との差異を比較し、弘前市の持つ特徴と地域性を明確にした。弘前市の降積雪の傾向や雪質を踏まえ、住宅および周辺の敷地に対する汎用的な雪害対策を検討した。加えて、屋根形状を決める上で有用な数値(滑落飛距離、雪止め個数など)を図表にまとめた。最終成果として、景観に配慮した雪害における対策例、施工費や維持管理費を試算した上で、住宅改修の事例を検討した(図3)。
酒井聡 デザイン工学専攻長 評
「豪雪地帯における持続可能な木造耐雪住宅の研究」をテーマに、弘前市を例に、将来の住宅が如何に快適で、経済的にも実現可能かを探求した。豪雪地帯の特性を考慮しているが、積雪対策はただの特殊問題ではなく、気候変動の中で日本全国が直面する可能性のある課題である。住宅購入は大きな経済的決断であり、建築時の環境負荷も無視できない。そこで、既存の建築物の長期利用と、それに伴う改修案の研究が必要とされる。この観点から、小野さんは地域の中古物件を詳細に分析し、その利用価値と改修に必要な費用を評価、最適な住まい方を模索した。本研究は、持続可能な住宅開発の方法を示唆するものと評価し優秀賞とする。